このページでは2ヶ月に1回、JLCの教育・研究について、さまざまなスポットから焦点を当てていきます。第1回は、3月2日(金)に行なわれたセンター統合20周年記念シンポジウムにおける小林幸江教授の発表に基づいて、センターの教育研究開発の変遷をお届けします。
JLCでは総合教材に始まり、技能別・専門教科・日本事情の各教材、さらにはeラーニング教材まで多種多様な教材を刊行してきており、これらはJLC内にとどまらず、広く国内外の日本語教育機関で用いられ、市販されているものも少なくありません。ここではJLCの歴史に即し、全体を3期に分けて、教材開発の歴史と背景を追ってみました。
JLCの前身である、東京外国語大学外国語学部附属日本語学校が設立されたのは1970(昭和45)年のことです。当時、日本は高度成長のただなかにあり、大阪万博が行なわれたのもこの年です。キャンパスは府中市中河原に設置され、第1期国費学部留学生として予備教育を受ける17名を迎えました。
設立間もない時期ながら、この時代には主教材『日本語I』『日本語II』『日本語III』といった教材が開発されました。これらの教科書は目次が新出文型で示されるなどユニークな工夫がなされ、1979(昭和54)年から始まった教員の中国派遣でも用いられて評判を呼ぶなど、早くも国際的な展開がなされています。
また、1982(昭和57)年には、現在まで続く、日本派遣大学院課程の学生を対象とする予備教育も始まり、この課程でのニーズに応えるために『中国人学生(理系)のための日本語』が作成されました。さらに、『日本語I』の再版に際し、新たな教材の開発も構想されました。
1980年代半ば頃から、日本語教育の世界的な隆盛に伴い、日本国内でも留学生が専門分野の専攻に必要な基礎知識を効果的に取得するための教材開発の必要が言われるようになってきました。この声に応えるべく、1986年に、附属日本語学校内に「留学生教育教材開発センター」が設置されました。
このセンターは3部門(のちに4部門)制を取り、各部門の教員が学内外の専門家と連携を取りながら、新しい教材を次々に発行していきました。この時期の最大の達成は、附属日本語学校当時から進められていた『初級日本語』の開発です。同書は1990年に三省堂から出版され、eラーニング対応がなされたり、版元が変わったりするなどの変更がありましたが、今日まで1年コースの根幹をなす総合教材として用いられています。
今から20年前の1992(平成4)年には、附属日本語学校と教材開発センターが統合され、留学生日本語教育センター (JLC)として誕生しました。新センターの設立に伴い、教材開発はいっそうの発展を遂げることになります。
まず新センター設立のわずか2年後の1994(平成6)年には『初級日本語』の続編にあたる『中級日本語』が完成し、凡人社から出版されます。同書も『初級日本語』と同じように、改定を重ね、現在も1年コースで用いられています。
また、文部省(当時)は大学で共通に使える教材のための調査を行い、その結果から電子媒体を用いた教材の必要性が明らかになりました。これに基づき、1995(平成7)年から3ヵ年計画で開発されたのが『中・上級社会科学系読解教材テキストバンク』です。本教材はフロッピィデゥスクの形態で、解説冊子と共に日本語教育機関に送付されました。また、時代を下ること5年の2000(平成12)年からは、CD-R媒体による『日本事情テキストバンク』も刊行されました。
さらに、『初級日本語』を骨子に、セメスター制を取る大学の日本語コースで用いることが可能な新たな総合教材の開発も目され、2010年には試用版として『大学生の日本語 Vol. 1,2』が完成しました。本教材は現在、全学日本語プログラムで試用されています。
JLCとなってからの教材開発はさらに多岐に渡りますが、これらについては次回に譲ります。