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教員インタビュー

2017年度東京外国語大学に赴任された伊東克洋先生に、2018年3月にインタビューしました。ご自身のご専門、ご担当の日本語教育への思い、これから大学生になる方々へのメッセージを熱く語ってくださいました。

第24回 伊東 克洋先生

行きたいと思ってる道を進んでいると最終的にそこにたどり着く

インタビュアー(以下、「Q」) 担当された講義や授業についてお聞かせください。

伊東先生(以下、「A」)2017年度は1年コース(国費学部進学予備教育コース)の初級クラスを教えました。いわゆる予備教育っていうのは初めてで、5年スパンの初めの1年で、彼らの自律性、ライフスタイルまで含め、大学に行ってから自立できるような教育をしていく意識づけというのは、すごく新鮮でした。前の大学で担当したのは交換留学生の日本語コースで、長くても約1年、学生達には1年を満足した形で帰ってもらおうということが主でした。
今の学生達の専門も理科系が多くて、アメリカのパデュー大学で教えていた時にも、専門がコンピューターサイエンス系とかエンジニア系という学生が多かったので、ちょっと似ている印象を持ちました。ただパデューでは、興味本位で日本語を履修する学生が結構多かったのですが、1年コースは日本語は必修で、専門も生物系もいれば化学や機械工学なども、さらには文科系の学生もいますし、バラエティーに富み、出身国も非常に多様ですごく面白く感じました。
大学院科目では、初めて第二言語習得をベースにしたフィードバックの口頭フィードバックとライティング・フィードバックとピアレスポンスの授業を担当しました。

Q)フィードバックがご専門と伺いました。日本語教育のフィードバック、それとも第2言語におけるフィードバック、あるいは教育一般のフィードバックでしょうか。

A)専門は何かと言われたら、割と何でもやってるような気がするんですけども、スタンスとしては、第二言語習得が自分のフィールドで、博士論文としてはフィードバックをずっとやってきました。特にライティング、作文に対するフィードバックです。直接的なものがいいか間接的なものがいいかなどいろんな論争がありますが、どちらにせよ、研究動機のひとつには先生のフィードバックの大変さがあるので、可能なら、間違ってる所にピピっとアンダーラインを引いたら、学生自身がそのアンダーラインを確認、修正できるようなウェブベースのプログラムが作れればいいなと思っています。
博士論文では、作文の修正に関して、従来のフィードバックよりデータ先行型の帰納的な学習の方が効果があると仮説を立て、コンコーダンスプログラム(文字を入力したら、その語や表現の例文が出てくるというプログラム)を作って、どのくらい学生がフィードバックを自分で直せるか調べました。結果的には修正する言葉の種類や明示性などによって有意差が認められましたが、まだまだ継続して調べていく必要があります。
日本語の先生方は、どの機関でもお忙しいので、学生にとっても教師にとっても役立つものをと考えています。学生を呼んでフィードバックする時に思うのは、本当に日本語ゼロの学生がどうやって日本語の文章を自分の頭の中で組み立てていくか、彼らの作文の産出プロセスをもっと知りたいですし、先生が言ったって通じないこともあるわけですから、学生も教師もお互い win-win になるような、教育に還元できるような研究にしていきたいと思います。

Q)日本語関係に興味を持たれたきっかけはどんなことですか。もともと日本語教師になろうって思われていたんですか。それとも研究をしようと思って、その中に日本語教育が視野に入ってきたのでしょうか。

A)もともと日本語には興味があって、入ったのは南山大学の外国語学部日本語学科でした。学生時代、バックパックの旅行が結構好きで、長い休みはよくヨーロッパに行ってました。ユースホテルに泊まって、6~8人部屋で話をしてると、いろんな国の人たちから日本語を教えてくれと言われ、日本語を教えることに興味を持ち始めたんですが、それとは別にすごく演劇とかにも興味を持ってしまって、ウィーンに語学留学したんです。
卒業後、ウィーンに戻って演劇学校に入ろうと思い、行く学校も決めてたんですが、卒業式当日、駒井明先生と坂本正先生が、「お前は日本語教師になるべきだ」と熱く語っていただきました。こんなに自分を必要としてくれる人に出会ったのは初めてで、その時点で進路を決めました。大学時代は不真面目で、本当に旅にはまっていて、時に呼び出しをくらって、すごく怒られてましたが、結果的に日本語教育の道に進もうかと。
裏話になると、その春がちょうど水谷修先生がヘッドで、名古屋外国語大学の日本語教育の大学院が始まったころで著名な先生方も大勢いらっしゃるのでちょうどいいだろうとおっしゃって,坂本正先生が私に入学願書を持ってきてくださったんです。
で、大学院にそのまま行くことになったんですが、その年、2000年の9月からすぐにアメリカの大学で講師として1年教えることになって。入ってすぐ休学でしたね。4月に入学して9月にはもうアメリカで教壇に立っていました。

Q)ご縁を感じますね。

A)はい、本当に。東京外大もそうですけれども。

Q)外大やJLCについての印象はいかがでしたか。

A)JLCって、入る前は日本で一番というイメージでした。やっぱり東京外大、留学生日本語教育センターっていったらドーンというイメージでしたね。だから不安しかなかったです。でも入ってみたら、想像以上に先生方が優しいし、いろいろなことを教えてくださるし、雰囲気がいいですね。おそらく僕は経験したことないんですけど、住吉(2004年以前のJLC移転前のキャンパス)の頃からの伝統というか、今までの僕の経験で、例えばミドルベリー大学で先生も学生と一緒に同じとこに泊まって、集中的に教育するプログラムと共通するものをとても感じたんです。

Q)ミドルベリー大学(米国)の集中日本語プログラムを担当なさったご経験があるのですね。

A)はい。ちょうど、そういう雰囲気なんですよね。僕の時は9週間、建物自体がいわゆる一つの合宿場となり、言語学習も生活もともにする経験をしました。北海道の国際交流センターのプログラムもずっと関わっていたんですが、夏の間、学生たちは全員ホームステイで、その期間のためにアメリカから多くの先生達が来るのですが、そこでの友人とは密な関係で、今でも仲良くしています。
今回1年コースを担当させていただいて、やっぱりそういう雰囲気を感じるので、教えていても心地よくて。

Q)全人的な教育がなされていると。

A)おっしゃる通りです。そういう意味では、自分が、言い方は変ですけれども、たどり着いたと言うか、やりたいという教育、理想としている教育を東外大で実践できるのは、本当に幸せだと感じます。

Q)大変の中にも楽しさが溢れていると。

A)ここから巣立っていった子たちがどれくらいいるかという想像できませんけれど、皆、心の中にここで生活とか根っこみたいなのがあると思うんですね。そういう伝統を壊してはいけないし、ますます多様化していく社会の中でJLCの持つ意味っていうのを学生たちにも伝えていければと思っていますし、自らの責任としても感じています。

Q)ご自身の子ども時代のことを教えてください。

A)そうですね。やんちゃと言えばやんちゃでしたね。小学校も中学校も高校もずっと学級委員を10年以上、その間に生徒会長とか、野球部キャプテンとかもしました。別にリーダーシップがあるとかではなくて、みんなで楽しいことをしたいというのが昔からすごく強くて、それでそういうポジションになっていたんだろうなと思います。

Q)子ども時代に感じていたことが、今のお仕事につながっているように感じます。

A)そうですね、やっぱり学ぶためには楽しさというか、モチベーションというか、その辺がすごく大事だと思っています。もし外的要因でスタートしたとしても、それがいつか本物のモチベーションに変わっていくことはおおいにありますし、いかに教師がその変化に手を差し伸べられるかという点が大事だと思います。宿題やってる時とかに自分もそうだったけれども、単に穴埋め問題だけだと、例えばすごく出来のいい学生でも外的要因だけでやっている子は教科書をコピーするか、通り一遍の答えしか返ってこなかったりするんですが、できなくても内的動機がすごく高い学生って、良い悪いは別としてオリジナルな答えを、先生に読んでほしいとかクラスメイトに聞いて欲しいとか、そこにすでにコミュニケーションが生まれてるというか、そういうのがすごく楽しくて。

Q)ちょっと面白いことをしたい、オリジナリティを出したいという。

A)私が人と違うことがいつもしたかったというのもあります。あとは好奇心がすごく強すぎて、例えばよくわかんないですけれども、ふと自転車で川を下ったらどうなるの、と思ったことがあって。道がないから。深いところへ行ったどうなるかと思って、いてもたってもいられなくなって、自分の自転車をばらして、できるだけ軽くして川に持って行って、川を自転車で海の方までずっと進んでいったんです。川の中です。何やってたんだろうとか思うんですけれども。最終的に海に近づき、深くなって挫折しましたが。

Q)やってみて、自分でこういうふうになっているのかと、諦められるところまでやって納得した上で戻ってくるっていうのは大きい経験ですね。

A)興味を持ち始めるとそっちに突っ走ってしまう子どもでしたね。男3人兄弟の一番下で自由にさせてもらっていましたが、一方で、成績や学校での自分のポジションとか、親を安心させようと、常に意識してやってました。

Q)若い世代、大学生や中高生の皆さんにへのメッセージがあればぜひ。

A)JLCに来て学生に教えてもらったことなんですけれども、学生の中の一人で量子力学に興味を持っていた学生がいて、彼のレポートを読んで、自分も理解をしようと量子力学を調べたんですね。昔から少しは知識があったんですが、例えば2つのものが1と0みたいに完全に分かれるのではなく、1つの同じ物質でも、2つの状態が同時に存在できるということなんですね。なので、1つの状態が進んでいく中で、全く別のところで、それぞれ関連なさそうに見えても、実は関連があったり、同じ状態で別のところにそれが存在している可能性もあることになります。それらを生き方としてとらえてみると、道は違えども、色んな道が重なったり、交差したり、様々な可能性が同時に存在したりしても、最終的には自分がたどり着きたいと思っているところに行けるのではないかと思います。何かを選択しなければならないというプレッシャーとか義務感ではなくて、自分が正しい、行きたいと思ってる道を進んでいくことが一番大事だと思います。大事なのはその気持ちを強く持ち、維持し続けることだと思います。

Q)内的な動機付けとか、内なる自分の気持ちを良く見つめるということ。

A)はい。おっしゃる通りです。

Q)好きな言葉、あるいは人生のモットーを教えてください。

A)物事自体は常に二面性を持っていて、一つの同じものであっても良い面もあれば悪い面もありますけれども、Always Look on the Bright Side of Lifeという歌にもあるように、僕は必ず人間でも人生でも物事でも、その良い面を見るようにしています。人とか人間関係、コミュニケーションでもまさにそうだと思うんですが、ネガティブなところとかは人間ですから、絶対にあると思いますが、見るべきところはそこじゃないと思っています。

Q)人生の支えになるような素敵なお話をありがとうございました。

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