今回ご紹介する先生は、世界社会言語センター所属の河内彩香先生です。JLCでは主に全学日本語プログラムのコーディネート、ご出講に携わってらっしゃいます。
「学習者に学習項目がきちんと伝わるか、伝わったか」と考えたい
インタビュアー(以下、I) 本日はお忙しいところ、ありがとうございます。まずご出身ですが、東京でいらっしゃいますか。
河内先生(以後K)ええと、東京ではなく、埼玉県の坂戸市で育ちました。大学を出るまでずっと坂戸でした。
I)小さいころは、どんな感じのお子さんだったんですか。
K)あのぅ、大きい子どもでした。小学校低学年の時に高学年だと思われるくらい背が高くて、6年生のときには今とほぼ同じ身長でした。体も大きくて、気も強かったので、周りには「強い」イメージを持たれていたかもしれません。
I)おぉ、それはそれは(感嘆)。
K)あと、父が出版社の編集者でしたので、お絵かきの紙は校正紙の裏紙でした(笑)。
I)じゃあ本に対する興味もあったんですね。たとえば小さい頃の愛読書とかはどんなものだったんですか?
K)愛読書といえるほどのものではないんですが、日曜日の夜に世界名作劇場のアニメがやっていて、それが大好きだったので、アニメを見てはその原作、たとえば『小公女』や『少女ポリアンナ』や『若草物語』とかを読んで、原作とアニメの違いを調べたりしてました。
I)そうなんですか。じゃあ話を中・高に進めましょうか(笑)。中・高ではたとえば部活とかは何かなさっていたんですか?
K)中学はバレー部だったんですが、とにかく土日も練習という厳しいところでした。なので高校(埼玉県立川越女子高校)では楽しくできることがしたいな、と思って、創部間もなくてまだ同好会だった弦楽オーケストラに入りました。初心者が多くて、私も高校でバイオリンを始めたのですが、みんなで定期演奏会や文化祭に向けて頑張るのが楽しくて、部長もやりました。
I)高校生にもなると、そろそろ将来の希望を考え始めますよね。日本語教師というのは、いつごろ意識なさったんですか?
K)当時は、職業としては知っていましたが、日本語教師になりたいとは思っていませんでした。大学生までは、父や叔母が編集者ということもあって、編集の仕事をしたいと思っていました。 高校時代に古典文学に興味を持っていたので、早稲田大学教育学部の国語国文学科に進学しました。教育学部ということで、上代や中古、中世、近代、現代の文学のほか、中国文学や日本語学も必修科目になっていて、そこで日本語学に出会って、あぁ面白いな、と、日本文学から日本語学へ興味がシフトしました。授業では類似した例文を与えられて意味の違いを考えたり、それこそ「象は鼻が長い」の構文を考えたり...。
I)どんな先生に習ったのですか?
K)岩淵匡先生や桑山俊彦先生、あと自分のゼミ指導の先生だった松木正恵先生などです。
I)日本語学のレジェンドのような先生方ですね。卒論は何をお書きになったのですか。
K)商品名の語構成を調べて、ネーミングの工夫を考察しました。
I)卒業後はどうされたのですか?
K)出版社で編集の仕事をしていたのですが、大学院に進学しようと思って、卒論指導をしていただいた松木先生のところに相談に行ったんですが、ちょうど、早稲田に日本語教育の大学院が新設される時だったので、日本語教育も考えてみるといいというアドバイスをいただきました。それまで全然、日本語教育に関わったことがなかったので、地域の日本語教室のボランティアを始めたのですが、それがとても楽しくて、結局、日本語学の研究と日本語教育、両方が学べる日本語教育研究科に進学しました。
I)つまり河内先生は、早稲田の日研の一期生になるのですね?
K)そうです。現職の日本語教師や留学生、地域ボランティアなどに関わっている人、新卒で進学した人など、いろいろな人がいました。周りに、教育経験の豊富な、優秀な人が大勢いたので、毎日必死でした。でも、就職してから大学院に入り直したので、好きなことが勉強できる環境のありがたさを感じていました。
I)なるほど。大学院ではどなたの研究室で研究されたのですか?
K)佐久間まゆみ先生です。院に入る前に、早稲田の授業を聴講する 機会がありまして、そこで文章論とか談話研究を面白いな、と思いまして。そのまま博士前期、博士後期と在籍して研究を続けました。
I)プロとしての日本語教育のデビューはいつなんですか。
K)修士2年(M2)のときに杉並の日本語学校で教え始めたのが最初です。修士を終えてからは東大の留学生センターで非常勤で教え始めて、早稲田の日本語教育研究センターでも、博士課程の院生も教えることができる契約講師というのをしていました。東大ではのちに特任助教になりました。その後、2016年の秋からこの大学でお世話になっています。
I)現在、興味ある研究分野はどのようなものですか?
K)一つは談話研究です。日本語の談話を構造的に分析し、それをどのように教えるかを研究しています。 またペアワークにおける学習者同士の学びも研究しています。あと、東大時代から教科書を作るプロジェクトに参加していまして、自然な日本語を教えるための教科書を開発しています。
I)そうですか。では最後の質問なんですが、河内先生が長く日本語教育のキャリアを続けていらして、心から納得したというか、いつも心に留めていることが何かありましたら、教えてください。
K)そう、ですね...。あの、平凡かもしれませんが授業の準備の時や授業中に「学習者に学習項目がきちんと伝わるか、伝わったか」と考えることが大切だと思います。時間を作って、授業に来ている学生に、きちんと何かを持ち帰ってもらうために、どうやって教えたらいいかな、どういう練習をしたら定着するかな…と考えるようにしています。
I)よく言われる「学習者中心」を本当に体現したお考えですね。今日は長時間、ありがとうございました。
K)こちらこそ、ありがとうございました。