このページでは1ヶ月に1回、当センターの教員へのインタビューや、センターが研究・開発中のプロジェクトに関する情報提供を通じて、国内最大の留学生教育機関であるJLCTUFSの「いま」を伝えていきます。
11回はREX、教研プログラムご担当の菅長理恵准教授へのインタビューです。
日本語教師は学習者の成長過程に立ち会える仕事です
インタビュアー(=Q):今日はお忙しいところ、ありがとうござます。初めにお生まれと、子ども時代のご自身、それから愛読書についてお話していただけますか。
菅長理恵准教授(=A):はい、生まれは兵庫県、姫路市の病院で生まれました。幼稚園で広島、小学校は横浜、中学から東京都民になりました。わりと転々としているので「ご出身は?」と聞かれると、ちょっと困るときがあります。小さいときは、そうですね、同じ年の子どもと遊ぶというよりは、もっと小さい子たちを引き連れて、基地を作ろう(笑)、とかしていました。あとは…そうですね、学校の図書室の本を、片っ端から読んでいるような子どもでした。小学校時代、いちばん印象に残った本は、ジャック・ロンドンの『白い牙』という作品です。
Q:ありがとうございます。ジャック・ロンドンはアメリカの作家ですから、大学で専攻された国語学の芽はまだ見えないようですが…?
A:ええ。高校(お茶の水女子大学付属高校)で進路選択というとき、国文学か国語学にしようと思ったんですが、研究となると、いわば切り刻んでいくような仕事になりますから、そうしたら好きな文学が楽しめなくなるのでは、と考えるところがあって、結局、国語学(東京大学文学部)に進みました。
Q:大学進学後はどうなさったのですか。
A:就職活動もしたんですが、バブルの最盛期で、リクルーターの方もちょっとはしゃいでいる感じで、何か違うな、という感じがありました。で、4年の暮れに、万葉集を素材に「や~む」の反語性について卒論を書き上げたんですが、書いたあとで、やっぱり私、勉強好きだな、という気持ちになって、大学院に行くことにしました。
Q:もう院試まで間がなかったんじゃないでしょうか?
A:ええ、1月から2月が試験でしたから。でも、まあ(笑)。
Q:日本語教育との出会いは、大学院に入ってからですか?
A:そうです。修士のときにドイツから留学生が来て、けっこう長くいたんですが、彼女のチューターとして、お世話係みたいなことをしました。
Q:その方に日本語を教えたのですか?
A:いえ、どちらかというと、この授業を取りたいけどどうすればいいか、とかどの先生の許可が要るのか、といった学則や仕組みを教えることが多かったです。ただ彼女は、かなり日本語が出来たんですが、「ので」を使うべきところも、すべて「から」を使っていたんですね。そのときに「ので」と「から」の使い分けに興味を持ったのが、日本語教育に関心を持った始まりだと思います。日本語教育での最初の論文も「ので」と「から」についてでしたから(笑)。
Q:そうですか。日本語教育の経験とかはどうやって身につけたのですか?
A:新宿日本語学校にお世話になって、江副先生の授業を何回か見学させていただき、その後を「じゃ、あとよろしく」と引き継いだという具合で(笑)、とてもいい勉強になりました。それから千葉大や一橋大で非常勤をしてから、このセンターに着任しました。
Q:ご着任以来、携わったお仕事はどのようなものですか?
A:私は1年コースが長くて、11年ずっとやってきました。それからREXに移って、20期から今年の22期まで3年間やりました。教研プログラムも平行して、同じだけやっています。
Q:日本語関係での、現在の研究や関心はどのあたりにあるのですか?
A:今まさに関わっているのは、文部科学省が行っている、外国人児童・生徒の総合的学習支援で、テスト開発について伊東先生、小林先生といっしょに取り組んでいます。JLCスタンダーズの開発の経験が基礎にはなると思いますが、児童・生徒となると母語がまだ十分ではないし、メタ認知も使えない、その状況を踏まえた上で Can-Do Statement を作り、テスト開発を行い、指導のヒントまで書くという構想なのですが、かなり大変です。また、俳句の方は、こちらは半ば趣味なんですが(笑)、俳人協会に属し、有馬朗人先生が主宰なさっている「天為」という結社に第一期からの同人として加わっています。8月は鍛錬句会というので、小樽で合宿して句作に励みました。
Q:そうですか。最後に、今後、日本語教育を志す読者に、メッセージをお願いいたします。
A:日本語教師というのは学習者の成長過程に立ち会える、すばらしい仕事だと思いますし、また実際、喜びも多いです。いろいろな人を相手にする仕事ですから、自分のアンテナというか、幅を広げておくことが大切だと思います。得意分野をたくさん作り、その中で、これ、というものをさらに深めていくのが良いのではないでしょうか。
Q:本日はありがとうございました。
インタビューを終えて─
菅長先生はセンターでは数少ない、国語学出身の研究者であり、また俳人でもある。実は国語学の素養に根ざして現代の日本語を考える視点は、日本語教育全体の中でも貴重なものだ。REXや教研といった、教師を相手にした授業でも、その知性と手腕はいかんなく発揮される。やや意外に思えた外国人児童・生徒のためのテスト開発においても、先生ならではの持ち味と熱意で、きっと素晴らしいものが出来るのは間違いない、そう確信するに足るインタビューだった。