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教員インタビュー

このページでは1ヶ月に1回、当センターの教員へのインタビューや、センターが研究・開発中のプロジェクトに関する情報提供を通じて、国内最大の留学生教育機関であるJLCTUFSの「いま」を伝えていきます。
第10回は日本語ご担当の荒川洋平准教授へのインタビューです。

第10回 荒川 洋平 准教授

終わった後、周囲に誰もいなくなるって状況を怖がってたら良いものはできない

インタビュアー(=Q):今日は夏休みのところ、ありがとうございます。初めに、ご出身と高校生くらいまでのご自身について、教えてください。
荒川洋平准教授(=A):出身は、東京の江戸川区です。生後間もなく葛飾区に移って、小3で実家がある町田市に越しました。下町の子供だったのに、郊外に越したから、新鮮でしたね。地元の中学から都立の町田高校に行ったのですが、まあ文学少年でした。高校生のときはもうタウン誌に連載小説とか書いて原稿料貰っていました。で、編集者やジャーナリストになりたくて、大学は立教の仏文科に進みました。

Q:英語はどうやって身につけたんですか。
A:中1までは英語に触れたこともなかったんですが、父親がラジカセを買ってきて、中1から基礎英語を聞け、というので、中1でそれを、中2で続基礎を、中3でラジオ英会話を毎回暗記するまで聞いていました。セルフ・オーディオ・リンガルというか(笑)。で、高1のときに市のお祭りがあってカナダ人と話す機会があったんですが、ちゃんと通じたので逆にびっくりしました。

Q:大学から今のお仕事につくきっかけというのは?
A:仏文に行くくらいだから、まじめに就職しようっていう気はあんまりなくて…。ESSを4年間やって社会化できたかなと思ったんですが(笑)、結局野放しで、大学を出てからは通訳、翻訳、塾や予備校の先生とか「語学切り売り」で食べていました。そうこうするうちに1996年に田町の日本語学校で教え始めたのが最初なんですが、初めは日本語を教えるのはいろいろな仕事の一つでした。日本最初の大検問題集が千代田アカデミーというところから出ているんですが、あれの英語・仏語の解答とCD解説は、匿名で僕がやってる(笑)。

Q:確かに先生は雑誌にエッセイを書いたり、放送大学の教材に歌舞伎役者を出演させたりとか、守備範囲が異様に広いんですが、そのバラエティの原点は仕事を見つけるまでの経歴にあるようですね。
A:まあ国立大の学部~大学院と進んだわけではないので、違うことをしていかないと生き残れない、っていう意識はわりとあるかもしれない。ただし書く・話すっていうアウトプットもアカデミズムの基礎である読むことと同じ、基礎訓練あってのもので。

Q:それはたとえば、どういうことでしょうか?
A:僕が初めて単著を出したのは2004年なんだけど、本の内容自体はさほど目新しいわけではないと思う。誇れるとしたらそれは文体で、その前15年くらいは分かりやすい文体のための基礎訓練をしていたんです。今日は10枚硬いものを書く、週末は柔らかいものを40枚書く、っていう風に。

Q:そうですか。今おっしゃった初めての著書は、スリーエーネットワークの『もしも…あなたが外国人に「日本語を教える」としたら』ですね。続編もありますね。
A:うん、でも自分の中では、1冊書いた時に、これで止めるつもりでいたんです。発売1週間で増刷かかったんだけど、編集者にきっぱりと、止めます、2冊目はありません、と。

Q:それはまた、どうしてですか?
A:書く最初から続編を考えると、どうしても出し惜しみが出るでしょう。書籍でも研究発表でも、あとイベントとかもそうだけど、終わった後、まわりに誰もいなくなるって状況を怖がってたら、良いものはできないんです。だから全力で書いて止めるんですよ、毎回。自分で書こうが書くまいが、読まれなきゃ絶版になって終わりですから。

Q:その割には、『もしも』シリーズは連作になってますよね。
A:う、うん…(笑)。一方で、姉妹作とか三部作というのが異常に好きでね。特に2010年に出した『とりあえず日本語で』は、もしもシリーズの3作目でもあるし、外国人と日本語でどう話すか、っていう課題に対する答えとしては講談社の『日本語という外国語』の続編ってのも自分の頭ではあって。実際、著作が入試問題で使われるときはたいていこの辺りから採られていて、受験業界の読み方はすごいな、って思いますね。

Q:新作は11月にアルクから出す辞書だそうですが、教材は放送大学以来ですか。
A:放送大学は下っ端の一担当者だから気楽でしたけど、辞書はまた位置づけが難しくてね。というのは、日本語教育の歴史は、TESOLのアダプテーションの歴史ですね。コミュニカティブとかミニマルペアっていうカタカナ語がデフォルトになっているのがその証左で。だから教材のアダプテーションは山のように行なわれていて、一見するとわからなくて、いかにもオリジナルです、っていう顔でいける。けど辞書はニーズだけで生まれるものじゃないし、祖述をしっかりしなくちゃいけないから出版社にも覚悟が要る。『広辞苑』や『大辞林』と比較するだけなら子供でもできるから、突っ込みどころがとにかく多い(笑)。

Q:実際、どういう辞書なんですか。
A:認知言語学の多義理論で、日本語の基本語を分析したものです。手法は執筆者として参加した『英語多義ネットワーク辞典』(小学館・2007年)と同じです。全3冊で、主幹はお茶大の森山先生で彼は動詞の担当、僕は名詞で、筑波の今井先生は形容詞・副詞です。読者対象は中上級の学習者と、ネイティブ・非ネイティブ問わず日本語の教員です。

Q:現在の学術的な関心もその辺にあるのですか?
A:さっき話した例の癖で、応用認知言語学はちょっと一区切りついたか、と(笑)。実際、出版後はパブリシティもあるし、使い方も提案しなくちゃいけないからそうもいかないんですが、あとは組織が多言語環境をどうマネジメントしていくか、という国際言語管理学(Linguistic Auditing)に興味があります。青山学院の本名先生にお誘いいただいて研究会やセミナーに呼んでいただいているんですが、さっきお話した「外国人と日本語でどう話すか」という問題が、この分野でやっと学術的な位置づけがなされました。メタファーの解釈の問題とかもあって、実に面白いです。

Q:本日はありがとうございました。

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